12.静電気測定

静電気の測定は通常の電気的量の測定よりもはるかに難しいものです。それは対象とするもののエネルギー量が小さいため測定することによって対象の量が変化すること、空間的な広がりのあるものを測定する必要があること等です。基本的には電圧、電流並びに電荷量の測定ですが、静電気では電位の分布が空間的広がりを持っている場合が多く、電圧という言葉では表現しにくいため、基準電位点(通常接地電位)をもとにして電位で表現しています。

12.1 電荷量の測定

図12-1で(a)の導体が電荷 Q を持っていて、(b)の電荷を持たない金属容器があるとします。この導体球を金属容器にさわることなくその内部へ入れるとあたかも金属容器が電荷 Q を持ったように振舞います。このような金属容器では電気カ線の分布が難しいので図12-2のような同心球を用いて説明します。

ファラデーケージ1 ファラデーケージ2

外側の球殻が内側の導体球を完全に取り囲むと、内側の導体球から出発する電気力線はすべて球殻の内側に終端します。球殻の正味の電荷はゼロとしていますから、球殻から外側へ出る電気力線は導体球の電気力線と等しくなります。このことはあたかも導体球の電荷が球殻に移ったようになります。この現象は ( 2-1 )式を用いると正確に説明することが出来ます。

このように等価的に電荷を移し替える働きをする容器がファラデーケージとか、ファラデーアイスペールと呼ばれるもので、静電気の分野では広く使われています。この方法の大きな利点は、複雑な形状の物体の電荷、多数物体上の電荷のように、直接その電荷を測定するのが困難なものに対して有効に利用できることです。

電圧計による電位の測定

一般に電気回路で行われている測定法で図12-3に示すような帯電物体の電位を測定する場合、電圧計で帯電物体と大地間の電位差を測定するのですが、静電気の場合にはこの方法ではうまくいきません。それは、測定器のもつ内部抵抗が静電容量と並列に接続されることになり、帯電物体上の電荷から(9-1)式で表される電流が流れ、その電流は帯電物体の電荷を減衰させます。ですから電位 V も同じような減衰を示します。

電位計の内部抵抗が非常に大きく、時定数 \(\tau \) が大きければ、測定時間内での電荷の減少は小さいから電位の変化は無視することができます。この場合、物体の静電容量の他に、電位計の入力容量と途中の接続ケーブルの容量をも考慮する必要があります。

キャパシタを用いた電位測定 クーロンメータの原理

帯電物体が導電性であれば、図12-4のように帯電した物体をその対地容量よりはるかに大きく既知の対地静電容量 Cg を有するキャパシタに接続すると、ほとんどの電荷はキャパシタに移動するので、その両端の電圧から電荷量が測定できます。勿論電位計の入力インピーダンスは非常に高いものである必要があります。この原理によるものがクーロンメータでその基本構成を図12-5に示します。 この図のように、入力電位は零となりすべての入力電荷は Cf に積分されて蓄えられます。出力電圧を V0 とすると、電荷 \(Q=-C\cdot V_0 \) と求まりますが、増幅器のオフセット電流が少ない程良い精度が得られます。

12.2 電位、電界強度の測定

電位測定法としては接触型と非接触型に分けることができます。普通の電気工学では電位測定は接触型であるのに対し、静電気工学では測定される電荷量が小さいために両者が利用されています。接触型としては静電界の力を利用した静電電圧計、抵抗を用いた電圧降下法、エレクトロメータがあげられます。

接触型の測定器は直接対象物へ接続して測定することから、先ほどの説明のように、その指示は正しい値を示しそうですが必ずしもそうではありません。静電気に利用される電荷は連続的に供給されるものが少ないから電位計を接続することにより被測定物の電位が変化するためです。

静電電圧計による電位測定

静電気力を利用した静電電圧計の場合を図12-6 (a)に示します。はじめ \(Q_0 \) の電荷を持った電位 \(V_0 \)の物体に静電電圧計を接続したところ、\(V_1 \)の値しか示しません。それは図12-6 (b)でもわかるように静電電圧計および途中の線の静電容量 C が被測定物の静電容量\(C_0 \)に並列に接続されるため全体の電位をかえるからです。この場合の真の電位\(V_0 \)は

\[V_0=V_1(1+ \frac{C}{C_0}) \tag{12-1} \]

で与えられ、もし物体の静電容量\(C_0 \)に対し静電電圧計の容量 C が小さければ指示は真値に近くなります。両者の静電容量が等しい場合には指示値は真値の半分にしかなりません。

抵抗と電流計による電位測定

抵抗による電位測定法の原理を図34に示します。もとの電荷が \(Q_0 \) 電位が\(V_0 \)であるとすればスイッチを入れてから流れる電流 i は( 9-3 )式の減衰曲線ですから、この時定数が測定に要する時間より十分長ければ問題ないのですが、通常の静電気現象ではよほど大きな抵抗を用いなければ難しいものです。しかしRを大きくすると電流値が小さくなりますから普通の電流計では測定きなくなります。それ故、図12-7の回路で電位\(V_0 \)を測定するためには微小電流が測れる電流計と非常に大きな抵抗を用いる必要があります。

非接触型としては回転セクター型、振動容量型が主なものです。いずれも非接触で電界強度を測定するものですが、市販品は電位で目盛られています。それは対象物から一定距離で計った電界強度から電位を求めたものです。

回転セクター型電界強度計 振動容量型電界強度計

図12-8は回転セクター型の原理を示したものですが、測定電極の前面にセクター型の遮蔽電極をおき、それを回転させることで測定電極へ入る電気力線を変化させるものです。電気力線の変化で測定電極へ誘起される電荷の出入電流から電界強度を求めるものです。

図12-9は振動容量型の例ですが、回転セクター型のように完全に遮蔽するのではなく、部分的に遮蔽することで誘起電荷を変化させようとするものです。音叉の共振を利用した振動片は小さいので、全体を非常に小型に出来ます。また空間分解能の高いものの製作が可能です。


移動先  11.静電気力  目次  13.帯電列の例

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