8.電荷の発生

第3節で電荷について簡単に触れましたが、もう少し詳しく電荷の発生について述べます。要するに物体や人間の帯電状態がどうして起こるかと言うことですが、これは以前にも述べたように電荷のアンバランスです。正の電荷が多ければ正に帯電した、負の電荷が多ければ負に帯電したと言います。

この様な電荷のアンバランスを生ずる機構は沢山ありますが、実用に使われている静電気応用機器の場合は、コロナ帯電、誘導帯電、接触帯電くらいです。 障災害を引き起こす原因の帯電も同様です。

8.1 コロナ帯電

前節で説明したコロナ放電を用いて帯電させるものをコロナ帯電と称しています。電子なだれ領域を過ぎると単極性のイオンシャワーの領域になるのでその領域に帯電させたい物体を置くなり、通過させることでその物体を帯電させることが出来るわけです。通常、静電気工学の分野でコロナ放電を発生させる電極構造は、針電極か線電極と平板電極が良く用いられます。

線対平板の等電位面 集塵機のダスト運動

図8-1は線電極と平板電極間の等電位面と電気力線を表したもので、線電極を発したイオンは電気カ線に沿って平板電極へ向かいます。

図8-2は電気集塵装置の電極構造を模式的に表したものですが、空気流れに対し垂直に配置された線電極からのコロナ放電は集塵極となる平板電極へ向かいます。空気流に乗ったダスト粒子はこのコロナシャワー空間を通過するときにイオンの射突を受けて帯電します。通常はイオン粒子が電気力線に沿った運動での射突ですから電界荷電と呼ばれるものですが、同時に熱拡散運動による射突もあります。粒子半径が\(\ 1\mu m \)以下ではこの拡散荷電が主体となります。

8.2 誘導帯電

平板上の球の電気力線

二枚の平板電極間に電界があり、下側電極上に導体球がおかれた場合の電気カ線は図8-3に示すようになります。

電気力線は球の表面に集中しています。前にも述べたように、電気力線の端は電荷ですから球の表面に電荷が集中している様子が分かります。今何らかの方法でこの球を持ち上げると、導体球表面の電荷はそのまま保持されますから、この球は正味の電荷を持っことになります。この方法による帯電を誘導帯電と呼びますが、この様な状態での球に誘起される電荷量は理論的に求めることが出来ます。

液柱分裂の誘導帯電

液柱を分裂させるとき、その近くへ図8-4に示すような誘導電極をおきますと、液滴に正味の電荷を与えることができます。図の左側にあるノズルを一定周波数で励振すると一個一個の液滴に正確な電荷を乗せることが可能です。

高い電圧を持った電極の付近の導体はこの誘導帯電によって、常に電荷が誘起されています。人間がこの様な高電界領域を通ることで、人体が帯電する可能性があるので注意が必要です。

8.3 接触帯電、摩擦帯電

絶縁体を他の物体と接触させると、接触界面で電子あるいはイオンが移動して電気二重層ができます。この電荷の移動は瞬時に行われると言われています。接触面で電荷の移動が行われるためには二つの物体の接近距離はナノメートル以下の必要があります。一般に固体同士を接触させた場合、接触面が完全に密着しているわけではなく、帯電に寄与する有効接触面積は見掛けの接触面積よりはるかに小さいのが普通です。例えば粘着テープのように有効接触面積の大きなものは電荷密度が大きくなります。

この様に電気二重層が出来た物体を引きはなす時、接触面での電荷密度がそのまま保持されるわけではなく、気中放電によって電荷密度は制限されます。一般には\(\ 10^{-5} \)C/m2 程度といわれています。気中放電の無い真空中ではこの値より1 ~ 2桁大きな値が観測されています。

接触帯電では接触面積などの要因が一定であれば、帯電の傾向は物質の組み合わせで決まります。Aと言う物体とBと言う物体を接触させた場合、Aは正に、Bは負に帯電すると言うことを色んな物質について調べていけば、どれとどれを接触させるとどちらが正に、どちらが負になるかが分かります。これをまとめたものの例が表1ですが、これは測定者による違いもあります。例えばナイロンと絹を接触させるとナイロンは正に、絹は負に帯電しますが、絹とポリエチレンを接触させると、今度は絹が正にポリエチレンが負に帯電します。(表1は第13節にあります)

接触している物体同士を接触面方向にずらして摩擦すると帯電量が大きくなります。これは接触帯電面の有効接触面積の増大と、発熱、表面層の破壊と物質移動などが寄与しているものと思われます。そのため、このような帯電を摩擦帯電と呼ぶのが一般的です。


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